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後ろで突然、泣き声が上がった。
振り返らなかった。少し前を歩く屑桐も、振り返らなかった。
男の子だ。そんなに小さくは無い、小学校の低学年ぐらいだろう。「いたい」、泣き声に塗れて不明瞭な訴えは、転んだのだろうと思わせた。
男がンな事で泣くんじゃねえよ。
呆れて口の中で呟くのと、距離の詰った肩にぶつかりかけたのがほぼ同時。
「っぶねぇな」
確か悪態を吐いたと思う。泣き声にはいつの間にか、母親らしき女の声が混ざっていた。こどもの声量に負けて何か喋っているようだという事しか解らなかったが、俺には既に後ろのそのやり取りなど只の雑音でしかなかったので、会話の内容が聞こえた所で変わらなかっただろう。

「…ああ。」
謝罪でも無く、同意らしい音だけ口にして、屑桐の速度は元に戻った。
僅かに感じた違和感を、その時は数分も歩かないうちに忘れてしまったのに。


後ろで突然、男の子の泣き声。いたいと喚く様からして転んだらしい。
振り返るかどうか、一瞬迷った。見た所で何が出来る訳でも無いと意識を目の前へ戻したら、前に居た屑桐は立ち止まって振り返っていた。
視線を追ってしまったのは無意識だ。
母親らしき女がこどもの前に屈み込み、擦り剥いた脚に愛しげに手を添える。
こどもが手を伸べ、まだ泣きやまないその声に被って聞き取れない何かを言いながら、母親はその手を取って立たせてやる。家族愛に溢れたその表情と声が、唐突に2年前の音と光景を脳裏に蘇らせた。

あの時も確か、こんな声だった。背中の向こう側にあったのは、こんな景色だったのか。
それでこいつは、あんなに。


無表情に歩き出した屑桐は、ユニフォームの胸元辺りに爪を立てていた。部活のショルダーを押さえた手だったから、重ければそんな風になってもおかしくは無かったが。
あれは、胸が痛かったのだ。己に足りないものを惜しみ無く与えられるちいさな存在への嫉妬だった。
何故気付かなかったのだろうと驚愕し、何故今は解ってしまうのかと舌打ちしたい気分になり、1秒に満たない間に思考回路が忙しい目に遭ったのを忘れ去ろうと首を振って頭を上げたら、屑桐と目が合った。

「…行くか。」
至極穏やかに笑ってそれだけ言うと、俺の頭が忙しい間にもそうしていたのだろう、あたたかい、いっそ幸せそうな視線を再度母子へ向けてから、屑桐はあっさりと歩き出した。
ぽかんとして動けずにいたら、いつの間にか掴まれていた手がノビてびんと引っ張られた。
バランスを崩してたたらを踏む。数歩もしないうちに追い付いて、ついでに膝の裏に蹴りをくれてやった。

「っぶねんだよ」
「ああ。悪い。」
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